電源ボタンがない、という設計
箱からして違います。パソコン用品みたいにベロを引き出す形ではなく、菓子折りのように蓋を持ち上げる形。子どもが開けやすいようにです。しかも蓋の裏側に梱包材が接着してあるので、蓋を上げた瞬間もう本体に触れます。ビニール袋も緩衝材の海もありません。
中身は本体と説明書と充電ケーブルだけ。説明書は注意書きと保証書のみで、遊び方はクイックスタートガイドの紙1枚、しかも3行です。「iPhoneを挿す」「アプリを落とす」「開いて遊ぶ」。先にアプリを入れさせないのが憎いところで、挿すと勝手にインストールを促してきます。ちなみに Romo ベースには電源ボタンがありません。挿したら起動、それだけです。
そこから爆音のムービーが始まって「Romoは宇宙から来た」と名乗り、家族全員が釘付けになり、テーブルの上で走り出しても端でちゃんと止まる。名前を付けて、チュートリアルでは生まれたてのRomoに動きを1つずつ教えてあげる形式。……教材ではなく友達として登場させる導線、うますぎませんか。
11年後、そのUXは動きません
ここまで褒めておいて言いにくいのですが、この体験は現在ほぼ再現できません。開発元の Romotive は事業をたたみ、Apple の開発者アカウントが更新されなかったことで公式アプリが App Store から消えました。頭脳を外から挿す設計だったので、アプリが消えた時点で本体はただの箱になります。
ただ、話はそこで終わりませんでした。Romotive は畳むときにソフトウェアを全部オープンソースにして置いていったんです。Romo のアプリ本体のコードも、iOS 17 まで対応を伸ばした SDK も GitHub に生きていて、有志の手によるサードパーティ版の Romo アプリが今も App Store にあります。会社が消えても製品が完全には死ななかったのは、この置き土産のおかげです。
2026年の私が同じことをやるなら
まず、スマホを頭脳にする構成を選びません。当時は iPhone が家でいちばん高性能なコンピュータだったので合理的な設計でしたが、端子は30ピンからLightning、そしてUSB-Cへと2回変わり、OSも審査基準も動き続けます。製品の寿命を、自分でコントロールできない他社の都合に預けることになる——これがいちばんの教訓だと思いました。
いま同じ「遊びながらプログラミング」をやるなら、本体だけで完結する子を選びます。toio コアキューブは手のひらサイズで絶対位置を読めるので、マットの上を走らせる遊びからビジュアルプログラミングまで地続きです。もっと小さく安く始めるなら Sphero Mini という手もあります。※Romo 本体は2026年現在、新品の流通はありません。中古を見つけても、動かすには上記の有志アプリ頼みになります。
結局いちばん古びていないもの
この記事、技術的な情報はほぼゼロです。スペックも回路も出てきません。それでも11年後に読んで面白いのは、書いてあるのが箱を開けてから夢中になるまでの設計だからだと思います。
正直、いまのIoT機器のほうが体験は後退している気すらします。アプリを入れて、アカウントを作って、Wi-Fiを選んで、ペアリングして、ファームウェアを更新して……その頃には最初のテンションはどこかへ行っています。挿したら起動、あとは向こうから話しかけてくる。Romo が2015年にやっていたことを、私たちはまだ追い越せていません。
今回の用語メモ
- Romo / Romotive:iPhone を挿して頭脳にする小型ロボットと、その開発元。Kickstarter 発の製品でしたが会社は解散し、ソフトウェアはオープンソースとして公開されました。
- 30ピン / Lightning / USB-C:iPhone の充電・接続端子の変遷。ドックに挿す形の周辺機器は、端子が変わるたびに作り直しか引退かを迫られます。
- オンボーディング:買った人が最初に触れてから使えるようになるまでの導線設計のこと。説明書を読ませない工夫がそのまま評価になります。
- ビジュアルプログラミング:ブロックを並べて処理を組み立てる方式。Romo のチュートリアルが「動きを教える」形だったのは、この考え方の先祖にあたります。
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